このブログでは理系大学院卒の私が、科学的な視点から様々な調理工程の「なぜ」を解説していきます。
今回は自由エネルギーについての話です。
自由エネルギーについてはわかりにくいところが多々あり、エネルギー保存則があるのに熱力学第二法則では自由エネルギーが低い方が進むといった点に、疑問を感じられた方もいるのではないでしょうか。
ここでは「自由エネルギーとは何か」についてわかりやすく説明していきたいと思います。
宇宙のエントロピーは増大する
いきなり話が大きくなったのですが、まずは宇宙についての話です。
熱力学第二法則には様々な表現があるのですが、言わんとすることは同じで、
「不可逆な自発変化では自由エネルギーが低い方に反応が進行する」
「孤立系のエントロピーは増大する」
といったように書かれています。
すなわち宇宙という孤立系のエントロピーは増大し続けるのです。
ここで一つの疑問が生じます。
宇宙という孤立系にはエネルギー保存則が成り立つのに、エントロピーが増大し続けたり、自由エネルギーが減少し続けたりするのはまずいのでは・・・?
自由エネルギー = 「量」+「質」
安心してください。
全宇宙のエネルギー総量は保存されてますよ。
自由エネルギーは
$$ G \equiv H - TS \\\\ A \equiv U -TS $$
で定義されています。
ここで\(G\)がギブスの自由エネルギーで、\(A\)がヘルムホルツの自由エネルギーです。
大事なのはエネルギーの総量は保存されている一方、エネルギーの質はどんどん低下していくということ。
上式においては\(H, U\)のエンタルピー、内部エネルギーが自由エネルギーの量を、\(S\)のエンタルピーが自由エネルギーの質を表しているのです。
つまり、自由エネルギーはエネルギーの量と質を同時に表すものであり、自由エネルギーが減少してもエネルギーの量は変わらず、質がどんどん低下していくのです(エンタルピーは増大)。
それでは、自由エネルギーはなぜこのような定義になったのでしょうか?
宇宙のエントロピーをどう扱うか
まず、宇宙という孤立系を図のようにあらわしてみましょう。

上図から、
$$ \begin{eqnarray} S^{univ} &=& S^{sys} +S^{surr} \\\\ Q^{sys} &=& Q^{surr} \end{eqnarray} $$
が成り立ちます。
ここで孤立系のエントロピーは増大するので、
$$ \begin{eqnarray} dS^{univ} &>& 0 \\\\ dS^{sys} + dS^{surr} &>& 0 \end{eqnarray} $$
となり、外界のエントロピー\(dS^{surr}\)は
$$ dS^{surr} = \frac{dQ^{surr}_{rev}}{T} $$
で表され、\(Q^{surr}_{rev}\)は全宇宙の\(Q^{univ}\)に対して非常に小さな値なので、
$$ dQ^{surr}_{rev} \cong dQ^{surr} $$
と近似できてしまいます。
このように近似することで、宇宙のエントロピーは、
$$ \begin{eqnarray} dS^{univ} &=& dS^{sys} + dS^{surr} \\\\ &=& dS^{sys} + \frac{dQ^{surr}_{rev}}{T} \\\\ &\cong& dS^{sys} + \frac{dQ^{surr}}{T} \\\\ &=& dS^{sys} - \frac{dQ^{sys}}{T} > 0 \end{eqnarray} $$
のように、すべて系の変数で表すことができました。
これで準備完了です。
温度体積一定のとき
まず温度体積が一定のときは第一法則より、
$$ \begin{eqnarray} dQ &=& dU + dW \\\\ &=& dU \end{eqnarray} $$
となります。
これを用いて系の宇宙のエントロピーを変形すると、
$$ \begin{eqnarray} dS^{univ} &=& dS^{sys} - \frac{dQ^{sys}}{T} \\\\ &=& dS^{sys} - \frac{dU^{sys}}{T} > 0 \end{eqnarray} $$
$$ -TdS^{sys} + dU^{sys} < 0 $$
ここでヘルムホルツの自由エネルギーの定義から、
$$ \begin{eqnarray} dA &=& dU - d(TS) \\\\ &=& dU - TdS \end{eqnarray} $$
であるから、宇宙のエントロピーは
$$ -TdS^{univ} = dA^{sys} < 0 $$
と、シンプルな形で表すことができます。
温度圧力一定のとき
次に温度圧力一定のときはエンタルピーの定義
$$ \begin{eqnarray} H &\equiv& U + PV \\\\ dH &=& dU + PdV \end{eqnarray} $$
を用いて、
$$ \begin{eqnarray} dQ &=& dU + dW \\\\ &=& dU + PdV \\\\ &=& dH \end{eqnarray} $$
となるから 、
$$ \begin{eqnarray} dS^{univ} &=& dS^{sys} - \frac{dQ^{sys}}{T} \\\\ &=& dS^{sys} - \frac{dH^{sys}}{T} > 0 \end{eqnarray} $$
が導かれます。
ここでギブスの自由エネルギーの定義から、
$$ \begin{eqnarray} dG &=& dH - d(TS) \\\\ &=& dH - TdS \end{eqnarray} $$
だから、宇宙のエントロピーは
$$ -TdS^{univ} = dG^{sys} < 0 $$
と表されます。
このように自由エネルギーという概念を用いることで、宇宙のエントロピーをシンプルに表すことができます。
以上が自由エネルギーを導入するメリットになります。
まとめると、
- 自由エネルギーは「量」+「質」であらわされ、第二法則から質であるエントロピーが増大し、自由エネルギーは減少する方向に進む。
- 自由エネルギーを導入することで孤立系である宇宙のエントロピーを簡潔に表すことができる。
みたいな感じです。
自由エネルギーのイメージがつかめましたか?