パスタを茹でるお湯に塩を入れたときのモル沸点上昇

モル沸点上昇

このブログでは理系大学院卒の私が、科学的な視点から様々な調理工程の「なぜ」を解説していきます。

パスタを茹でるお湯に塩を入れるという記事で、塩を入れることで水の沸点が上昇するという話に触れました。
確かに沸点が上がれば沸騰したお湯にパスタを入れたとき、温度低下が和らぐような気がしますが、実際どの程度沸点が上昇しているのでしょうか。
今回は塩をお湯に入れたときに沸点が上昇するメカニズムについてお話したいと思います。

エントロピーの概念を理解していないと難しい話なので、もしよかったらエントロピーについての記事をご覧ください。

沸点上昇とは

一般に沸点(boiling point)とは、気体の化学ポテンシャルと液体の化学ポテンシャルが等しくなる温度を指します。化学ポテンシャルは

$$\mu=\frac{\partial G}{\partial N}=\frac{\partial H}{\partial N}-\frac{\partial S}{\partial N}T$$

で表されます。
ここでGはギブスの自由エネルギー、Nは分子数、Hはエンタルピー、Sはエントロピー、Tは温度です。
自由エネルギーについての記事はコチラ。

すなわち化学ポテンシャルは1 molあたりの自由エネルギーと等しい値となります。水蒸気と液体の水の化学ポテンシャルを図1の温度-化学ポテンシャルグラフにプロットすると、

沸点の定義
図1 水蒸気(気体)と水(液体)の化学ポテンシャル

図1のようになります。
それぞれの化学ポテンシャルは傾きS、切片Hの直線で表され、その交点が沸点Tbとなります。
ここでは簡単にするために一分子当たりのエンタルピー、エントロピーをそれぞれH, Sと表記しました。

ここでこの系に塩(NaCl)を入れます。
NaClを入れても分子間相互作用であるHはほとんど変化しませんが、Sは増加するので傾きが大きくなり、沸点TbTb'になります(図2)。

エントロピーが増加したときの化学ポテンシャル
図2 エントロピーが増加したときの沸点上昇

以上がお湯に塩を入れたときのモル沸点上昇についての熱力学的説明です。
モル凝固点降下についても同じメカニズムで、雪に融雪剤として塩化カルシウムを散布することでエントロピーが増加し、雪が溶けるといった応用がなされています。

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パスタを茹でるお湯に塩を入れたときのモル沸点上昇

それでは具体的に、パスタを茹でるお湯に塩を入れたとき、どれくらい沸点が上昇するか計算していきましょう。

沸点上昇度ΔT (K)は質量モル濃度m(mol/kg)に比例し、比例定数であるモル沸点上昇係数k(K・kg/mol)を用いて表すと、

$$\Delta T=k \cdot m$$

となります。
kは溶質によらない係数で、純水の場合は0.515 kg/molだそうです。(啓林館より)

余談ですが、質量モル濃度(mol/kg)と体積モル濃度(mol/L)は分母に溶質を考慮するかという大きな違いがあります。すなわち、
・質量モル濃度(mol/kg) = mol/溶媒の質量(kg)
・体積モル濃度(mol/L) = mol/溶液の体積(L) = mol/溶媒+溶質の体積(L)
となります。
この二つの違いは非常にややこしく、特に英語では質量モル濃度をmolality, 体積モル濃度をmolarityというため、聞き分けるのが困難です。
今回は水の膨張の影響を排除するために、質量モル濃度(molality)を用いていると考えられます。

話を戻して、純水1 kgに塩化ナトリウム(分子量58.44 g/mol)を入れたときのΔTを計算すると、0.881 Kとなります。
この1 Kに満たない沸点上昇に有意差があるかどうかはわかりませんが、ほとんど意味がないように感じられます。沸点上昇よりも、塩化ナトリウムの塩味の意味合いの方が強いでしょう。

ということで主観的な結論ですが、パスタを茹でるお湯に塩を入れたときの沸点上昇は微々たるものであり、やはり塩を入れる理由は

「でんぷんと塩化ナトリウムが溶解したパスタソースの素をつくるため」

であると思われます。
このあたりの熱力学の解釈は人それぞれだと思うので、是非とも議論しあいたいものです。
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参考文献
希薄溶液の性質, 啓林館http://www.keirinkan.com/kori/kori_chemistry/kori_chemistry_2_kaitei/contents/ch-2/1-bu/1-4-2.htm (2019/05/27閲覧)

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